私はここで技術を学んで、将来的にはどんな要求にも応えられるカメラマンになりたいなって──
終えてから自分はどういう道でどんなものが向いているのか定めたい

 二言目には「何でもアート」。猫も杓子も芸術家。そんな糞みたいなムードを感じることはないか。リリー・フランキーがかつて記した――個性という言葉の大好きな没個性の集団――という言葉が僕ら若者に強烈に突き刺さる。

 これに対し、フォトグラファー・高橋さとみは、「個性とか作家性とかは後からついてくるもの。今は修行期間。終えてから自分はどういう道でどんなものが向いているのか定めたい」と筋が通ったアンサーを示してくれた。 

全ての経験が写真家としての強度を増す機会に、真摯に向き合う。

 彼女は現在、千駄ヶ谷の撮影スタジオでアシスタントとして働く。ライティングやスタジオ機材の操作など、そこでは個人でのアーティスト活動では求められないあらゆる技術が要求される。

 「カメラマンにもパターンがあって、アーティストアートで作家志望みたいな人と、商業ベースの技術で求めれる写真を撮る人といるじゃないですか。私はここで技術を学んで、将来的にはどんな要求にも応えられるカメラマンになりたいなって」。全ての経験が写真家としての強度を増す機会に、真摯に向き合う。

 いずれ手にしたい自分の「振り幅」から逆算し、現段階で足りない経験値を獲得しようとすることは、どんな業界だろうと共通してスキルを上げる有効な手段となる。 

この物語の一人称は大角刈りの大男ではなく、小柄でキュートな1人の女性だ。  

 カメラとの出会いは福島県内の短大での写真の授業。出された課題で撮ってきたモノクロ写真を褒められたことをきっかけに興味を持ち、同県中通りの写真館へ就職。「何もできなかった」ところから修学旅行に同行するなどして経験を積んだ。 

 転機は2011年、3月11日。一度地元に戻り、いろいろと思いを巡らせてみた。「全然違う仕事も考えたけど、写真どうこうより、片足突っ込んでおいてここでやめたらどうしょうもねーなって」。

 念のため繰り返すが、この物語の一人称は大角刈りの大男ではなく、小柄でキュートな1人の女性だ。  

ハードに働いて"シュート"レンジを広げながら、仕事の合間には自分の作品とも向き合う。

 2013年に上京。ハードに働いて”シュート”レンジを広げながら、仕事の合間には自分の作品とも向き合う。青を背景に花と写るポートレイトは、”大人だけど女子”なバランスで「夢見がち」がテーマ。植物を切り取った作品は「普段見えない植物の一面」をあぶり出している。  

佇む白いドレスの女の写真からは、夜の匂いが漂ってくる。 

 最近惹かれるモチーフは「夜」。昼間に人が大勢いる場所でも、夜が訪れると違う顔を見せる。「夜の方が生々しい気がする」。

 それは漫画家・森泉岳土の言葉を借りるなら、太陽の照る昼間は”よそゆきの顔”で、夜は”良いことも悪いこともやさしく隠してくれる。その分、ほのかな感情がクローズアップされる”からかも知れない。陰影礼賛。

 佇む白いドレスの女の写真からは、夜の匂いが漂ってくる。 

地に足をつけ学ぶ雌伏の時。高く飛ぶためには必要な過程だ。

 彼女が好きなフォトグラファーのライアン・マッギンレーが若き写真家たちに送った言葉が、イルで尖ったメディア「VICE」の記事で紹介されている。

―覚えておいて下さい。私達の仕事は、死ぬほど苦しいものです。しかし、だからこそとてつもなくロマンティックなのです―

ライアン・マッギンレー

 地に足をつけ学ぶ雌伏の時。高く飛ぶためには必要な過程だ。今はまだ、こだわりや作家性を口にしない彼女が経験に裏打ちされた「言葉」を見つけた時、どんなカットで世界を切り取るのだろう。


高橋 里美

岩手県北上市出身。1989年生の24歳。ポートレート、物撮りをメインに撮影。今年はデザイナーの友達と夜をテーマにした写真集を出すのが目標。散歩で持っていく愛機はCanonの5DMarkⅢなど。